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Native Seed Travel 情熱の「いぶりがっこ」篇

更新 2021.6.5

 

現地の人でも知らない野菜や、
その土地で、代々受け継がれたきた野菜を巡る旅「Native Seed Travel 」。
第四弾は、とある女性農家を訪ねるため、秋田県へ。

その女性農家と出会ったのは、2012年に遡る。
私たちが兵庫県で農業研修を受けていた頃、いつも笑顔で、どんなこともポジティブに取り組む同僚がいた。

それが、加藤マリさんだった。

研修が終わった後、加藤さんは、ふるさと秋田県で就農し、伝統の漬物「いぶりがっこ」を作っていることをSNSで知った。

私たちは、彼女に再会してみたくなり、連絡を取ってみたところ、
加藤さんは、二つ返事で私たちを快く招いてくれた。

加藤さんが情熱をかけて挑戦する漬物づくり。家族一丸となって、切磋琢磨するその姿は、これから農の道へ挑戦する方にとって、生きるヒントになるのだろうと思う。

秋田の郷土食品の可能性

雪解け間近な3月中旬。
私たちは、秋田県仙北市へと車を走らせた。

仙北市は、東北の小京都と呼ばれる「角館町」や、日本一水深が深い「田沢湖」、秘湯として名高い「乳頭温泉郷」など、豊かな自然と文化資源に恵まれている。

トンネルを抜けたら雪国、という言葉があるように、そこには美しい雪景色が広がっていた。

仙北市は、秋田県の北東部に位置し、岩手県と隣接している。

高速道路のインターチェンジを降りて、1時間ほど走ると、加藤さんが営む『さんきち農園』がある。農園の近くにある漬物の加工場へ到着すると、加藤さんと、そのお母さんが温かく出迎えてくれた。

私たち

加藤さん、お久しぶりです!

加藤さん

遠いとこから、よー来たな〜。元気しとったか〜!?

加藤さんと、そのお母さんが笑顔で出迎えてくれた。

加藤さんは、秋田県仙北市で生まれ育つ。
若い頃、アルペンスキー競技でオリンピック予選選手になるほどの腕前を持ちながら、教員を目指すため、東京の大学へ入学した。

卒業後は、青年海外協力隊として、2年間、ケニアでエイズ対策隊員で活動。日常的に人の生死に関わったことをきっかけに、食べ物を作ることが全ての原点ではないかという思いに至り、農家を志したという。

帰国後、加藤さんは、非農家から『さんきち農園』を立ち上げ、無肥料無農薬で大根を栽培し、秋田伝統の漬物「いぶりがっこ」の生産・加工・流通・販売を手掛けている。

加藤さんが作る無添加の「いぶりがっこ」
「燻り漬(いぶりづけ)」とも呼ばれ、主に大根や人参を桜やナラの木で燻した後、洗って漬け込んで作られる。

私たち

「いぶりがっこ」ってどんなお漬物なんですか?

加藤さん

えっとね、秋田の……

お母さん

秋田の郷土食品といえば「いぶりがっこ」なのよ!
漬物は、秋田の方言で「がっこ」というの。
語源もね、燻した良い香りがすることから「雅香(がこう)」という言葉がなまった説もあるのよ。
 
昔の人は、干し大根が凍ってしまうのを防ぐために、囲炉裏の上に大根を吊るしていたみたいなの。それが結果として、煙で燻されて、見事なスモーク大根になった。それが「いぶりがっこ」の始まり。
 
ほら、嗅いでごらん。芳潤な香りするでしょ!?
なにより、美味しいし、ビールや焼酎のおつまみにも合うからね!
 
ところで、あなたたち、何が知りたいの?

私たち

ちょ、ちょっと待ってください、お母さん、情報が多いですね!(パワフルな方だなぁ…)

お母さん

あら、ごめんなさいね!
ついつい、話しすぎちゃうの!

お母さんは、加藤さんと同じく、元気いっぱいで、笑顔が素敵な女性だった。

私たち

えっと…加藤さんが「いぶりがっこ」を作り始めた理由を教えてください。

お母さん

それは、やっぱり「いぶりがっこ」のニーズの高さよね。
 
娘が大学生の頃ね、自分で学費を賄うために、県外から多くの観光客が集まる『角館の桜まつり』で、秋田の郷土食品「ばっけ味噌」を作って販売したことがあったの。
 
そしたらビックリ、300円の「ばっけ味噌」が70万円くらい売れたのよ!
ほんと、家族みんなで、驚いちゃってさ。
 
そのときに、秋田の郷土食品は、大きなポテンシャルと需要があることを確信したの。
 
それから、お父ちゃんが和食屋をしていたから、秋田の郷土食品を作って、東京のマルシェや百貨店で販売活動を始めたの。
中でも「いぶりがっこ」は、一番人気があったのよ。

秋田の郷土食品「ばっけ味噌」は、味噌に山菜のフキノトウを混ぜ込んで作られる。
「ばっけ」とは、秋田の方言で、フキノトウのこと。

ケニアで、百姓になることを決意

大学の学費を小商いで稼ぐ、加藤さんの行動力にも驚いたが、その経験から、秋田の郷土食品に大きな可能性を感じたという。
加藤さんに、農家を志した理由も聞いてみた。

加藤さん

元々、爺ちゃんが畑をしていたこともあって、興味はあったんだ。
でも、一番のきっかけは、ケニアに行ったときにね、厳しい環境で畑に向き合う人たちを見て、私も百姓になることを決意したの。

加藤さんは、20代の初め、ケニアでエイズ対策隊員として2年間、活動していた。
その頃、ケニアで畑を営む農家の考え方や農法技術に、心底驚いたという。

加藤さん

ケニアって聞くと、発展途上国のイメージを持つかもしれないけど、私が出会った農家の人は、すごく技術が高かったんだ。
 
決して豊かな環境ではなかったけど、ある農家の青年は、環境を考えて、農薬や化学肥料を使わずに作物を育てていたの。
「自然栽培」という言葉も今ほど知られていなかった時代に、畑の周りに虫が嫌う木々やコンパニオンプランツを植えて、害虫を防いだりしていた。
 
一番驚いたのは、畑での活動を記録していて、植物がいつ、どれほど収穫できて、いくらのお金になるのかを全て計算していたこと。
 
それに、当時、アフリカではHIVの感染症も多発していたから、彼は、自分自身が死んだ後の収穫設計もしていたの。
「もしも」の事態に備えて、家族を養えるよう、畑を営んでいた。
 
自分が死んだ先の未来のこと考えながら、土を耕し、種を播くケニアの青年を見て、私も「日本に帰ったら一流の農業商売人になって、いつかケニアで畑をしたい」と思ったんだ。

加藤さんが立ち上げた『さんきち農園』。元の名前は「三吉雑草農園」だった。

 

加藤さんは、帰国後、その想いを胸に、無肥料無農薬で大根を栽培し、師匠となるお婆ちゃんたちに教わりながら、無添加の「いぶりがっこ」づくりを始めた。

初めの頃は、なかなか納得のできる味にならず、失敗を繰り返したが、5年目にして、ようやく自分らしい味が出せるようになってきたと、加藤さんは話す。

加藤さん

「いぶりがっこ」と一言でいっても、大根の質、燻し加減、発酵のコントロール、天気や気温の違いによって、味が全然変わってくるんだ。
作る人によって、味が異なることも面白味のひとつなの。
 
今でも、師匠のお婆ちゃんたちと一緒に「いぶりがっこ」を作っていると、ハッとする瞬間がたくさんあるよ!

近隣の直売所には、いくつの「いぶりがっこ」が売られていた。それぞれに味の個性があるそうだ。

加藤さん曰く、秋の初雪が降る中、大根を収穫し、夜遅くまで燻し小屋で火を焚き続け、手作業で一本一本大根を漬けていく作業は、本当に骨が折れるという。

これまでの話を聞いて、「いぶりがっこ」に懸ける想いやニーズの捉え方など、加藤さんは、ただの農家ではなく、職人肌と企業家としてのバランス感覚を持ち合わせていると思った。

大根を燻す「燻し小屋」の中も見せてもらった。
焚き火が消えないように観察しながら、大根を燻す作業は、まるで陶芸のようだと加藤さんは話す。

加藤さんに種のことや、栽培する大根の品種について聞いてみた。

加藤さん

今まで、秋田在来の地大根を何種類も育ててきたけど、畑に合う品種と合わない品種があるんだ。
 
毎年、逞しく育つ大根を選別を残して、種採りをしているよ。
種を繋いでいくと、その土壌に馴染んでいくの。
 
最近だと、何もしなくても、勝手に育つ大根も出てきて、驚くことも多いよ。
『さんきち農園』のオリジナル大根を作ってる感じかな。
 
どれだけ手を抜けるかも技術だよね。
目指すは、無労力栽培だな〜!

加藤さんがコレクションする、変なポーズをする大根が面白い。

家族のチームプレイで稼いでいく

『さんきち農園』は、その販売方法もユニークだ。
栽培から生産・加工・流通・販売まで家族だけで手掛けており、誰一人欠けてはならない、家族ならではのチームワークとフォーメーションがあるという。

お母さん

マリは、社長みたいな役割だな。姉と私は、加工や販売の担当。
弟は、東京の百貨店やデパートに売り出したり、マーケティングを担当してる。お父ちゃんは、和食屋を営みながら、規格外の大根や売れ残った食品を調理して、販売できるように再加工してくれるの。
 
家族みんな、それぞれに役割があるってわけ。
ケンカすることも多いけど、家族単位だからこそ、変幻自在に動けることがうちの特長なの。

加藤さん家族。写真は「ふるさと祭り東京」出店の様子

『さんきち農園』は、毎年、全国の人気グルメが集う『ふるさと祭り東京』にも出店し、家族全員が生計を立てれるほどの売り上げをあげている。

「父親が家族のためにお金を稼ぐ」という常識に囚われるのではなく、家族全員がそれぞれの得意分野や才能を活かして、稼いでいく考え方は、新しい働き方のひとつだと感じた。

加藤さんは、自分たちの家族は特異だと話すが、家族の結束力があれば、どんな時代が来ても、豊かに過ごせるのでないだろうか。

パッケージのデザインも家族で手掛けている、イラストは加藤さん。

「攻め」の人生を情熱と共に進んでゆく

加藤さんが百姓を志すと決めた際、お母さんの反応はどうだったのかをお聞きした。

私たち

マリさんが百姓の道に進むと決めたとき、お母さんはどんな風に思われましたか?

お母さん

反対はしないけど、やれるもんならやってみたら?って。
 
群馬に物売りに行ったときにね、100歳近いお爺ちゃんが手を真っ黒にして、「今日も畑を一人で10ヶ所も周ってきた」って言ってたの。
 
その人がすごく良い表情してたのよ!
「俺は、明日死んだって悔いはねぇんだよ」って。
 
こういう人生もアリよねって、ほんと素晴らしいな、と思ったの。
 
百姓はやっただけのことは、必ず跳ね返ってくるの。
食べ物を作ることは、生きる糧になるんだなと思ったね。

 

年齢が進むにつれ、多くの人は、新しいことや先の見えない道に進むことに対して、保守的になってしまう。
しかし、加藤さんのお母さんは、むしろ「攻め」の姿勢を貫き、自ら証明して生きているような気がした。

お母さん

人生は、常に攻めていかないとダメよね。
 
やっぱり、方法や策じゃないの。そこに想いや情熱があったり、誰かを助けてやりたいなって気持ちが伴っていると、必ず、一念岩をも通すのよ。
 
自分がどれだけ本気になれるか?っていうところが、周りを動かす一番大切なところだと思います。

最後に、加藤さん家族が、ここまでパワフルに漬物づくりに挑戦し続けている源は、何なのかを伺った。

お母さん

やっぱりね。息子、娘を想う気持ち。これだけです。
 
私が生きられるのも、後20年ぐらいかなって思うから、若い世代に頑張って欲しいし、私も負けてらんないね。
 
何かを始めるのにリスクや恐れることなんてないし、不安に思うことはないのよ。
若いからできる。できることしか考えなくていい。
 
誰かを想う気持ちって、ものすごく強いよ。そこが重要なんです。

「いぶりがっこ」には、麹漬、柿漬、ビール漬などのバリエーションも

 

「いぶりがっこ」のパッケージに使われている“赤”は、命を燃やす情熱の“赤”だと、お母さんは話してくれた。

誰かを想う気持ちが、加藤さん家族が作る郷土食品に宿り、食べると不思議と元気になる「いぶりがっこ」。
モノづくりを行う上で、大切な必須科目のような、学びのあるお話を聞くことができた。


東北の寒さは厳しいと聞いていたが、ここで暮らしを営む方々は、とっても愛に溢れた心の温かい人々でした。

マリさん、お母さん、ありがとうございました!

情熱の「いぶりがっこ」や「ばっけ味噌」はコチラから!

『さんきち農園』オンラインショップ:https://www.sankichi-farm.com/blank-2
『さんきち農園』公式facebook:https://www.facebook.com/sankichi.farm/

地元のお婆ちゃんが作る「いぶりがっこ」も販売しているので、味の食べ比べも楽しい。
加藤さんのお父さんが作る、「いぶりがっこタルタル」も美味しかった!
ばっけ味噌の他には、大葉味噌も!

購入はコチラから!

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