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Native Seed Travel 栃木県足尾町編

更新 2022.5.27


現地の人でも知らない野菜や、
その土地で代々受け継がれたきた種を守る人たちを巡る旅「Native Seed Travel 」。
その第四弾は、栃木県の在来作物を求めて旧足尾町(現日光市)へ。

栃木県日光市足尾町掛水にあるわたらせ渓谷線「足尾駅」
駅前には、足尾銅山で活躍したトロッコが展示されていた。

足尾地区は、栃木県西部に存在した町で、かつては隆盛を極めた足尾銅山で知られています。1910年代は、人口約3万8千人で県内の宇都宮に次ぐ町でしたが、足尾銅山閉山後は、過疎化が進み、人口は3千人台に。今は周辺自治体が合併し日光市の一部となりました。

足尾町は、かつて縄文人が住んでいた地域と言われ、猿や鹿や猪、カモシカや熊などの野生動物の宝庫で自然豊かな山間部です。それに対して足尾銅山の廃坑跡や鉱山労働者の住んでいた長屋跡、亜硫酸ガスの影響で植物が枯れ、岩肌がむき出してしまった山々などが残っています。

そんな足尾町には、かつて鉱山で働いていた人たちの胃袋を支えていた在来種が残っています。「唐風呂大根」と「舟石芋」です。いずれも現在の作り手は数名しか残っていません。

足尾町唐風呂地区で栽培されてきた「唐風呂大根」
舟石峠を中心とした地域で栽培されていた「舟石芋」

唐風呂大根は、足尾地区付近の土壌で栽培しないと紫色に色づかない大根で、煮物や栃木県の郷土料理「しもつかれ」との相性が抜群です。

「しもつかれ」は主に栃木県方面に分布する伝統の郷土料理で、初午の日に作り赤飯とともに稲荷神社に供える行事食。鮭の頭と大豆、大根や人参、根菜、酒粕を煮込んで作られる。

今回、唐風呂大根の種を長年繋いできた久保田公雄さんと、唐風呂大根の保全活動を夫婦で行う栃木県で青果店を営む「森の扉」の野原典彦さんからお話を聞きました。

左:久保田公雄さん 右:野原典彦さん

二つの在来作物の栽培者が少なくなった要因はさまざまですが、まず第一に足尾地区は野生動物の王国なので金網がないと野菜の栽培ができない。さらに山間部ということもあり、大規模な農場が存在しない現状があります。今では就農する農家さん自体がいません。

久保田公雄さんが管理する自給畑。金網がないと作物を育てることができない。

このような過酷な環境下で、どのようにして足尾地区で唐風呂大根や舟石芋が育てられてきたのか。そして、これから残す意味はあるのか私たちは疑問でした。

故・橘真さんのブログによると、かつて日本の暮らしは、生活に密着した野菜や種芋を、集落内や近隣で共有・贈与・交換しながら、その度に行われる人為的な「選抜」を経て、その土地独自の形質を持つ野菜の「種」が歴史的に固定されてきたと言われます。

また先人は、農家の知恵として、わざと異種を混植し、交雑させ、それを選抜することで、アブラナ科などの「近交弱性」「自家不和合性」を乗り越えてきました。

その混植や交雑によって、多様な雑種が生み出され、結果として「種」が年月をかけて緩やかに固定してきた歴史があります。唐風呂大根や舟石芋もおそらく銅山の鉱夫たちが贈与や交換し合って形質が固定してきたと考えられます。

そういった野菜は、「在来種・在来作物・伝承作物」といわれますが、そもそも定義がありません。私たちは「地元農家が自給作物を作るために10年以上、種を採り栽培してきたもの」として解釈しています。

現在、営利栽培に向けて商用される種は、耐病性や多収性などの作り易さかつ食味を兼ね備えて育種された優秀なものが多いです。そのため唐風呂大根のように「多くは取れないけど、郷土料理に合う」や、舟石芋の「煮っ転がしの料理に合うけど、皮が薄く手作業で収穫しないと破れやすい」といったような育種目標は許容されにくいです。

しかし、そのような地域の人との種の贈与や交換などが生み出す多様なネットワークこそ、在来種ならではの魅力と感じます。在来種を100年以上繋いできた方の話によると、古くは嫁入り前に娘に種を託す文化もあったといわれます。

現在、久保田さんと野原さんは、自然栽培という化学肥料や農薬に頼らない農法で、在来野菜を繋いでいます。お話を伺って、在来野菜はそうした文化的側面だけでなく、それ以上に自然栽培や自給的な農業との相性の良さに可能性を感じました。

動画内でも紹介していますが、5年ほど自家採種を繰り返すと、唐風呂大根や舟石芋の種・種芋は無肥料でも大きく育つようになったと野原さんは言います。

元々は有機栽培で種が繋がれていたが、ここ数年は全て無肥料の自然栽培で繋いでいる。虫食いはほとんど発生しないという。
野原さんは、そうした種の文化在り方を地域のワークショップを通じて発信しています。
「唐風呂大根」の自家採種ワークショップ。
みんなで収穫した「舟石芋」

不安を煽るわけでなく、飽食の日本で食料難は100%起こらないと思いますが、現在のウイルス騒動やウクライナの戦争しかり、今後、大豆など輸入野菜を使った加工品・食品の価格が高騰する可能性は高いと感じます。昨年にトイレットペーパーが無いというデマでパニックが起こったように、価格な高騰などは混乱を招く要因になります。

だからこそ、ライフラインの一つとして「種」を確保し、野菜を自給している家庭はある程度の社会的なインパクトがあっても耐えることが出来ると感じます。在来種や固定種を育てることの意義は、多様性が未来を救うなど大袈裟な理由でなく、これから各家庭や自給農家が今ある在来種をアップデートしていくことだと思っています。

種を採ること自体は手間はかかりますが、今後、ご紹介していけたらと思っています。

実際に、私たちも久保田さんから種をもらい、私たちも栃木県内で育ててみましたが、虫食いもなく育ちました。そもそも大根の葉は虫食いは少ないですが、同時に育てた別の品種の大根と比較すると育ちが良かったです。

お二人の詳しい話は、動画にまとめているので、良ければ観てみてください。

二人のお話は動画にまとめています。

参考記事

http://www.sumufumulab.jp/column/writer/w/7/c/135?PHPSESSID=slg4pj9bokjsbcf3qkvq9i66n4

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