部屋のスイッチをつけると、当たり前のように「電気」がつきます。
火力発電や原子力発電があるのことは知っていても、そもそも電気とは何か、また自分の家に電気が届くまでのプロセスを説明できる人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、社会インフラの基礎知識として、その仕組みと課題をご紹介しています。
電気と発電の正体
まず、電気とは何かをご説明します。すべての物質は、「原子」と呼ばれる小さな粒からできていて、その原子の中心には、「原子核」があり、その周りを「電子」が常に回っています。電子の中には、原子核を回る軌道から離れて、自由に動き回ることができる「自由電子」と呼ばれる電子があります。この自由電子の動きが「電気」の正体です。鉄やアルミニウムなど自由電子をたくさん持つ物質は、電気をよく通しますが、自由電子を持たないプラスティックやゴムは電気を通しません。
電気の歴史は、紀元前600年頃にギリシャの哲学者タレスが宝石を布で擦るとモノが引きつけられることに着目し、「静電気」を発見したことが始まりです。
18世紀には、アメリカの科学者ベンジャミン・フランクリンが雷が静電気と同じであると考えて、雷雨の日に凧を揚げるという実験を行い、雷が電気であることを科学的に証明しました。
19世紀には、イギリスの科学者マイケル・ファラデーが導線を巻きつけたコイルの中で磁石を動かすと磁気の変化が生まれ、電気が流れる「電磁誘導」という現象を発見しました。今の発電所や発電機には、この原理が利用されています。
現在、日本での主な発電方法は、水力発電、火力発電、原子力発電がありますが、これらすべての発電所は、この原理を利用していて、大きな磁石とコイルでできた発電機を使っています。プロペラ(タービン)を回すことさえできれば、電気を生み出すことが可能です。
発電所の仕組み
水力発電では、水が高いところから低いところへ落ちるときの勢いを利用して水車を回し、水車とつながった発電機の軸を動かすことによって電気を生み出しています。代表的なのは、下の図の「貯水池式発電」です。その他には、川の水を引き込んで電気をつくる「自流式発電」、電気をつくった水を、夜間に汲み上げて繰り返し利用する「揚水式発電」があります。
火力発電は、石油や天然ガス、石炭を燃焼させてお湯を沸かし、蒸気をつくり出します。その蒸気を使ってプロペラ(タービン)を回して電気をつくります。代表的なのは、下の図のように蒸気を利用する「汽力発電」です。その他には、高音の燃焼ガスを利用する「ガスタービン発電」、ディーゼルエンジンなどを利用する「内燃力発電」があります。
原子力発電の仕組みは、ウランやプルトニウムと呼ばれる物質を核分裂させることによって大きなエネルギーを生み出します。核分裂は、次々と連鎖して反応が起こるため、その膨大な熱エネルギーを使って蒸気を発生させ、タービンにつながった発電機を動かして電気を生み出します。「蒸気でタービンを回す」という意味では、発電の仕組みは全く同じです。
日本の原子力発電所では、アメリカで開発された「軽水炉」という種類の原子炉が使われています。軽水炉は「濃縮ウラン」を燃料に使うことで、蒸気を発生させる方法です。「濃縮ウラン」とは、ウラン鉱山から採掘された鉱石を様々な過程を経て燃料にした物質です。
現在、火力発電の燃料となる石油、天然ガス、石炭や濃縮ウランは、いずれも日本では産出はかなり少なく、全て海外からの輸入に頼っている状況です。
電気が家庭にやってくるまで
では、電気が私たちの家まで送電されるまでのプロセスをご説明します。
まず、電気の流れを「電流」といいます。大きな電流の圧力のことを「電圧」といいます。
発電所でつくられた大きな電気は、高い電圧で送り出されるため、家庭などで使いやすいように電圧を変える必要があります。電圧を変えることを「変電」と呼び、その役割をするのが変電所です。
変電所では、送る場所に合わせて電圧を変えながら、それぞれの施設や家庭へ配電線を通して電気を送っています。
発電所から変電所まで電気を送るための高圧電線を「送電線」といいます。送電線は鉄塔によって支えられ、田園地帯など様々な場所を通って、電気を送ります。
発電所でつくられた電気は、その使い道に応じて変電されて家庭や工場へ届けられます。
まず、発電所から27万5000〜50万ボルトの電気が送り出され、最初に「超高圧変電所」で15万4000ボルトに変電されます。その後、「一次変電所」で6万6000ボルトまで変電されます。変電された電気は、鉄道会社や大規模な工場へ送電されます。
私たち家庭に届くのは、「配電用変電所」で、6600ボルトまで電圧が下げられて、配電線を通じて送電されます。さらに電信柱に設置された変圧器で100-200ボルトにまで電圧が下げられています。
発電所から電気が家庭まで届くプロセスです。
夜中でも電気が灯くのは、発電所が休むことなく稼働しているからです。首都圏に供給される電気の約90%は神奈川県の大型火力発電所によってつくりだされます。電気の速さは、光の速さと同じくらいなので、発電所で作られた電気が家に届くまで一瞬です。
家庭で使った電気の量は、「電力量計」を見るとわかります。
電信柱から住宅に取り込まれた電気は、「分電盤」という装置を使って各部屋に送られます。分電盤のブレーカーは漏電を防ぐ役割があります。また配線用遮断器は、回路が複数に分かれているので、異常が起こっても影響が少なくて済みます。
24時間、何時でも使えるとても便利な電気ですが、発電所では、地震などによって停電しないように毎日、設備の点検や補修が行われています。特に東日本大震災では、原子炉がメルトダウンしましたが、2021年現在、原子炉内に溶け落ちた燃料を取り出す作業は継続中です。廃炉完了までに40年かかるといわれます。
火力発電所の内部は、東京電力の「【火力発電所に潜入!】電気はこうして作られる」が分かりやすくまとめられています。
自然再生エネルギーについて
電気は、2000年まで東京電力や関西電力といった10社の電力会社が独占的に販売していて、一般家庭や商店では、電気をどの会社から買うか選ぶことはできませんでした。
しかし、法律が変わったことで、「電力の小売全面自由化」が始まり、2016年からは、一般家庭にも電力の自由化が広がっています。それに伴って、再生可能エネルギーを使った発電も広まりつつあります。有名な発電方法として「太陽光発電」、「風力発電」、「地熱発電」、「バイオマス発電」があります。
その他、発電技術は新しいものがたくさんあります。スマートフォンなどにも利用される「蓄電池バッテリー」、音や振動で発電する「振動発電」、海の波のエネルギーを活用した「波力発電」。近年では、宇宙に衛星を飛ばし、太陽光パネルを広げて発電する「宇宙太陽光発電」などの開発が進められています。
自由に選べる電力会社
さいごに「電力会社の乗り換え」について簡単に説明します。
最近まで「電気は決められた会社から買うもの」というイメージがありましたが、電力が自由化されたことで、今は誰でも電力会社を選べる時代です。
先述した通り、2016年まで住んでいる地域によって契約できる電力会社が決められていました。現在は、石油会社、通信会社、鉄道会社など、さまざまな企業が、家庭向けの電気小売事業に参入しています。電力自由化後に電気の小売事業に参入した企業を、一般に「新電力」と呼ばれています。
たとえば、京都のお坊さんが運営する電力会社、再生可能エネルギーを利用した電力会社などもあります。
電力会社の乗り換えには、いろいろなメリットがあります。電力会社によって、個人のライフスタイルに合った料金プランが提供されているので、電気料金が安くなったり、再生可能エネルギーを利用することで、環境に配慮した電力会社を選ぶことができます。
私の家庭では、毎月の電気料金が再エネ発電所に届く仕組みの電力会社「みんな電力」を選んでいます。
さいごに
いかがだったでしょうか。
非常に便利な電気ですが、ひと昔前までは、薪や動物の力を利用して電気は自給するものでした。たとえば、馬や牛は田畑を耕したり、今でいうエンジンや電気モーターの役割をしていました。水車や風車は、水を汲み上げたり、穀物をついて粉にするための力になっていました。さらに、木や草を薪に利用することで、森や里山の環境が保全に繋がったといわれます。
便利な暮らしに慣れてしまった私たちにとっては、電気の自給は難しいかもしれません。しかし、日本の発電所の燃料となる天然ガス、石油、石炭などの化石燃料は、そのほとんどが海外からの輸入に頼っている状況です。つまりそれは、国際情勢によって、日本の電気事情が大きく左右されるということを意味します。
コロナ禍など変化が激しい現代社会において、私たちはどのようにしてエネルギーを確保し、エネルギーによって成り立っている生活を守るべきか、この記事がそんなことを少しでも考えるきっかけになれば嬉しいです。
参考資料:
・PHP研究所「電気・ガスはどこから来ているのか?」
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