今、自分が暮らしで使っている「水」がどこから来ているかご存知でしょうか。
そして、トイレで流した排泄物や風呂などの生活排水は、どのように処理されているのか。
この記事では、社会インフラの基礎知識として、その仕組みと現在の処理方法をご紹介しています。
世界初の水道は、古代ローマ
世界で初めて水道が建設されたのは、今から約二千年以上前の古代ローマ。
都市で水不足を解消するにあたって、山の水源地から水を引く水道橋が建設されたことが始まりです。
日本で初めて作られた水道は、戦国時代。神奈川県の小田原城下町に飲み水用として整備された「小田原早川上水」と言われます。江戸時代の水道は、高低差を利用した「水道井戸」や「水道枡」や水売りが活躍しましたが、錆や水道の劣化などの問題が発生し、明治時代には、外国の技術を取り入れた鉄管が広まりました。
水の大循環
「水」は、太陽のエネルギーによって、地球上をさまざまに循環しています。
太陽の熱が海の水を蒸発させて雲となり、雲で雨を降らせ、地下に染み込んだ水は森林を潤し、地下水を通じて沢となり、流れ出した末に川や湖になります。流れでた水は「取水施設」から「浄水場」へ運ばれ、「給水所」の水道管を通して私たちの家へと辿り着きます。
そして、私たちが使った生活排水は、下水道を通って「下水処理場」へ運ばれ、川や海に放流されています。そして再び、同様の工程で循環を繰り返します。
日本の国土は約3分の2が森林です。降った雨や雪は、森林の地の中に染み込み、地下水や川へ少しずつ流れます。このように水を蓄える働きをするシステムを「水源林」と呼びます。
水源林には、雨水や地下水を蓄える働き「水源かん養」、土の中でろ過される「水質の浄化」、土砂や表土の流出を防ぐ「土砂流出防止」という働きがあります。
川の上流域では、林業の担い手不足などが原因で、森林の手入れが行き届かなくなり、水源林の水を蓄える保水力が低下するケースが増えています。
そのため、水道局の職員が生えすぎた木を間引く「間伐」、余分な枝葉を切り落とす「枝打ち」など水源林を整備、保全するための作業を行っているそうです。
また行政やNPO法人、ボランティア団体とも共同し、森林の整備活動を行うケースもあります。
日本は水の豊かな国と言われますが、日本の川は短く、流れが急であるため、雨水はすぐに川や海に流れ出てしまうと言われます。また梅雨と台風の時期に集中して雨が降ることが要因など様々です。そのため、全国各地にはダムが建設され、雨の多い時期には水を貯め、雨の少ない時期に備えています。ダムは、雨の多い時期に川の氾濫を防ぐ役割もあるとされます。
蛇口をひねるだけで、水が出る理由
蛇口をひねると水が出る工程は、大きく分けて、3段階です。
まず、川の水を取り入れる「取水施設」、川の飲める水にする「浄水場」、配水量の調整などを行う「給水所」から水道管を通って、やっと私たち家まで辿り着きます。
これらの工程には大きな費用がかかるため、水道事業は、基本的に税金を使わず、利用者が水道料金を払うことで成り立っています。そのため地域の環境によって水道料金が異なります。
また「水道法」という法律が、配水の方法を細かく定めていて、給水人口が101人から5,000人以下の水道事業は「簡易水道事業」、5,001人以上の水道事業は「上水道事業」と決められています。ただし、給水人口が100人以下の場合、水道法に当てはまらない場合もあります。
では、簡単にいくつかの工程をご紹介します。
川や湖、貯水池などから水を取り入れるための場所が「取水施設」です。取水施設には、川に水門を設置し、水をせき止める「取水堰(しゅすいせき)」、川や貯水池に立てた塔から水を取る「取水塔」、川岸や湖岸に門をつけて水を取る「取水門」、水源の表面から直接、菅に水を取る「取水管渠(しゅすいかんきょ)」などがあります。
下流の川や湖の水には、泥や砂、細菌を含んでいるので、それらを飲んでも安全な水を作るのが「浄水場」です。浄水場では、取水施設から水を取り入れ、水道法に基づいた基準に合うように処理しています。
浄水場では、取水場から送られてきた水を「着水井」で受け、水量の調節をしてから「混和池」に送ります。混和池では、泥や砂を沈みやすくするために、凝集剤と言う薬品を水に混ぜます。そうすると細かい砂などが塊となり「沈殿池」に沈みます。沈殿池から送られてくる水は、ろ過装置に通し、沈殿しなかった細かい汚れを取り除きます。
「次亜塩素酸ナトリウム」という消毒用の塩素を水を加え、人体に害のある細菌やウイルスを取り除きます。
大正以前の日本では、消毒の技術が発達しておらず、コレラや赤痢といった伝染病が発生し、流行時には1年間で約1万人以上の死者が出ることもあったそうです。現在の、浄水場の水質基準項目には、大腸菌の有無、水銀の量、残留塩素の量などが調べられています。
東京や大阪などの都市部では、通常の浄水場の処理に加えて、オゾンや生物活性炭を利用した「高度浄水処理」が行われます。高度浄水処理では通常の浄水処理では、十分に対応できないアンモニア窒素などの物質が取り除かれます。
浄水場で作られた水は「給水所」で貯水され、ポンプで配水の量や圧力を調整しながら、水道管を通して各家庭に配水されています。
日本が経済発展していた頃、工場排水がそのまま川や海に放流されていました。工場から出た汚れた水が原因となる病気がいくつも発生しましたが、現在ではそれらの公害はなくなり、2016年には多摩川で約4万匹のアユが遡上したと報告されています。
使った水はどこへ行くのか?
さて、最後になりますが、洗濯やトイレ、台所で使った生活排水はどのように処理されているのでしょうか。
生活排水を流す排水口は、地下の下水道につながっており、道路には雨水を下水道に流すための「雨水枡」があります。ここから雨水が入り、道路に水浸しにならない仕組みになっています。
日本でも地方の限界集落などでは下水道が整備されていない場所は多くあります。そういった場所には、各家庭に「浄化槽」の設置がされていますが、古い民家などは浄化槽すら設置されていない場合も珍しくありません。私たちの住む栃木県茂木町の水道局の統計では、約40%の家庭の生活排水が未処理で流されているそうです。(公共下水道の利用はなんと約15%)
生活排水や生ゴミ、し尿をそのまま川や土に流してしまう前に、水を蘇らせる「下水処理場」や「ポンプ場」があります。下水処理場では、沈砂池(ちんさち)、第一沈殿池、反応槽、第二沈殿池、塩素接触槽という処理した後、海や川に放流されます。
「沈砂池」では、まず最初に水に溶けない固形物を取り除き、「第一沈殿池」ではさらに細かな汚れを取り除きます。「反応槽」では、元々、し尿や汚水に住んでいた微生物や細菌を空気で活性化させ、分解し、無機物にしています。そして分解が終わると「第二沈殿池」に移り、3-4時間かけて反応槽で出来た汚泥を沈ませ、塩素消毒されます。
処理工程の中で、出たヘドロや汚泥は、水分を絞り、焼却。最後に残った物はセメントの原料としてコンクリートで固めるのが基本的な汚水の処理方法です。
下水道の歴史も古く、世界最古の下水道は、4000年前の古代インド。都市遺跡であるモヘンジョ・ダロでは、家から出た汚水を大通りの下水道菅に流し、沈殿池に集めていました。
ヨーロッパでは、産業革命以前まで下水道がなかったため、汚水や排泄物は、道路や家の周りに捨てられていました。日本では 安土桃山時代に豊臣秀吉が「太閤下水」と呼ぶ下水道を整備し、今でもその一部が使われています。
江戸時代には、排泄物を肥料として売買し、農作物に利用する習慣がありました。トイレも汲み取り式だったので、溝などにし尿が流れ出す事はなく、清潔に保たれていたと言われます。 当時の江戸の町は、たくさんの堀や川が流れており、これが下水道の役割をしていたそうです。現在の処理工程では、私たちの排泄物は循環の中では土に還らないため、その仕組み自体に警報を鳴らす方もいらっしゃいます。
さいごに
いかがだったでしょうか。
私たちは、暮らしに密接した身近なことなのに意外と知らなったことが多くあり、改めて生活の基礎知識として勉強し直して行きたいと考えています。
先人の知恵が集約され、便利な水道と下水道システム。見直すべきことは私たちの「暮らし方」ではないでしょうか。
大きな水の大循環の中で、自分自身がどのような役割をすべきなのか?
もう一度考え直す時代がやってきたと思います。
私たちの地域には、そういった仕組みを理解し、どう行動していくかを実践する方がいらっしゃいます。
ぜひ、ご興味のある方はぜひ、ご覧になってみてください!
水の杜 育む「暮らしと生業」創造プロジェクト
https://motion-gallery.net/projects/kagomelabo
参考文献
・PHP研究所『水は、どこから来るのか』
・『ウンコロジー入門』
・地球の暮らしの絵本『水をめぐらす知恵』
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