タンポポの在来種と外来種
タンポポには大きく分けて、日本固有の日本タンポポと外国から西洋タンポポの2種類があります。この2種類は、「総苞片(そうほうへん)」が反り返っているかで見分けをつけることができます。


西洋タンポポは、ヨーロッパが原産といわれますが、いつ日本に入ってきたのかは、明らかになっていません。
一説によると、札幌農学校の創立時(明治)にアメリカの農学者であるウィリアム・ペン・ブルックス氏(William Penn Brooks)がキャベツやトマト、ジャガイモ、ニンジンなど数十種の種を持ち込んだ際に、タンポポが食用野菜の一つとして持ち込まれ、家庭菜園で栽培されたのが始まりだといわれています。
しかし、タンポポの味と食感は、他の野菜と比べると日本人の舌に合わず、いつしか忘れられ、雑草化してしまいました。
西洋タンポポの脅威
日本タンポポと西洋タンポポは見た目の他に面白い違いがあります。
日本タンポポは、春にしか花を咲かせませんが、西洋タンポポは一年中花を咲かせ、何度でも種子を生産することができます。また、種子のサイズも日本タンポポと比べて、西洋タンポポは2倍以上も小さく軽いため、広範囲に種子を飛ばすことができます。


さらに、西洋タンポポの種子は、「アポミクシス(apomixis)」という、クローン種子を作る特殊能力を備えており、周囲に昆虫がいない環境でも自分のクローンをどんどん作り出して増えることができてしまうのです。
アポミクシスとは、花粉が受粉しなくても種子を形成できる「自家受粉」のことです。西洋タンポポが日本の侵略的外来種ワースト100に入ることも肯けますね。
日本タンポポの生存戦略
一見、西洋タンポポの方が生存力が高いと思えますが、昔ながらの自然が残っている里山のような場所では、日本タンポポの方が強いといわれます。
日本タンポポの種子のサイズは、西洋タンポポよりも大きいため、遠くまで飛ばすという点では不利ですが、種子からは大きな芽を出すことができます。さらに、他の花の花粉と「他家受粉」できるため、多様性に富んだ子孫を残すことができるのです。
西洋タンポポは、分布を広げたり、個体を増やすことに強みがありますが、多様性の面でみると弱く、気候などの急な環境の変化があれば、一気に絶滅してしまうリスクが高いといわれます。

日本タンポポは、春にしか花を咲かせず、種子を飛ばすと、根だけを残して、自ら枯れてしまいます。これは冬眠の逆で、夏に地面の下で眠るので「夏眠(かみん)」と呼ばれています。
夏が近づくと、他の植物が生い茂るため、タンポポのような小さな植物は、日光が当たらず生存競争に負けてしまいます。そこで、日本タンポポは強い植物との競争を避けるために、夏の間は地面の下でやり過ごし、ライバルたちが芽を出す前に、先に花を咲かせて種を残す戦略をとっているのです。
一方で、日本の四季がインプットされていない西洋タンポポは、他の植物が生い茂る夏の間も花を咲かせてしまいます。そのため、西洋タンポポは、都会のアスファルトの隙間などで生き残れますが、自然の多い場所では生き残れず、枯れてしまいます。
西洋タンポポに比べて、春にしか咲かない日本タンポポは劣っているようにも見えますが、じつは戦略的。つまり、西洋タンポポが増えて、日本タンポポが減る現象は、日本の自然が減っているからという見方がされているわけです。
ぜひ、道端でタンポポを見かけた時は、その「総苞片」をチェックしてみてはいかがでしょう。

引用文献
小川潔『日本のタンポポと西洋タンポポ』丸善出版
山田卓三『タンポポの観察実験』ニューサイエンス社
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