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タネの基礎知識、タネとは何か?

更新 2022.1.4

 

タネの生存戦略

種は、身の回り色々な場所に落ちています。道端、公園、落ち葉の中。
ふと草むらを歩いていると、衣服に種がついていることもあります。植物は、一度根付くと自分の力では、他の場所へ移動することができません。だからこそ、少しでも親元から離れた所へ移動できるように風、水、動物の力を使って遠くの場所へと移動する仕組みを備えています。

外来種の雑草「アメリカセンダングサ」の種。 動物にくっついて種が運ばれます。
種をよく見ると、フックのようなトゲが無数にあり、一度くっつくとなかなか取れません。
外来種の雑草「セイタカワダチソウ」の種。非常に軽く、風に乗って遠くまで運ばれます。
秋の雑草「アザミ」の綿毛。フワフワと空中を漂うように種が運ばれます。
「自然薯(ヤマイモ)」の種殻。種殻の中に種が入っていて、種を飛ばすための羽のようです。
果皮の一部分が変化して翼のようになったものを「翼果(よくか)」といいます。

タネの寿命

種は、とても身近にあるのでそれが「生きている」ということをつい忘れてしまいます。

中でも有名なのが、数千年以上の時を経て発芽したハスの種。1950年代に千葉県にある落合遺跡の地層から、弥生時代の遺品とともに2000年前のハスの種が発見されました。そのハスの種は、植物学者の故・大賀一郎博士が発芽を成功させ、「大賀ハス(古代ハス)」と呼ばれます。現在では、日本各地で栽培されています。

その他にも岩手県にある中尊寺では、鎌倉時代のものと思われるハスの種が見つかり、「中尊寺ハス」と名付けられ、この種も発芽して花を咲かせています。

千葉市で約2千年前のハスの種が見つかり、現代に発芽しました。

身近な雑草でいえば、ナズナ・ハコベ・スベリヒユなどは、25年経っても発芽する能力があるといわれます。日本の種子学を確立した近藤萬太郎博士(1883-1946)は、野菜の種の中で1年で発芽能力を失う「短命種子」や、5年経っても発芽する「長命種子」があることを発見したことでも有名です。雑穀のヒエなどは保存状態によって、約10-50年以上も発芽能力を持つといわれます。稲は冷凍保存すると長期間保存できたり、温度・湿度によって発芽能力が大きく変わってくるといわれます。

春の七草でもあるナズナは、弥生時代に麦と共に伝来したといわれます。
小さな白い花を咲かせるハコベ。

野菜の種の寿命
短命種子(1年ほど):玉葱、葱、人参、落下生等
常命種子(2年ほど):キャベツ、レタス、マメ類、牛蒡、ホウレン草等
常命種子(3-4年ほど):大根、蕪、白菜、胡瓜、南瓜等
長命種子(5年):茄子、トマト、スイカ等

種には、オナモミのように1つの実に2つの種が入っていて、発芽時期がずれる仕組みになっているものや、ドングリのように来年、再来年に芽を出すものもあります。これらは、発芽時期にバラつきを持たせることで、気候変動や病気などで一斉に枯れてしまう事態を避けるための戦略といわれます。

オナモミの実を割って見ると、中には2種類の種が入っています。
ドングリやトチノミ。リスなどが、地中に埋めておいたり、食べ残しの実が発芽することもあるようです。

種の発芽条件

「発芽」とは、種の中にある「胚(はい)」が目覚めて芽や根として生育を始め、種子の殻を破ることをいいます。種から根が出ることを「発根」と呼びます。「出芽」は土の中で発芽した種が地表から芽をのぞかせることです。

種が芽を出すために必要な条件は「水・温度・酸素」です。この条件の他に、光が発芽を促進させる「好光性種子」。光を必要とせず、暗い方が発芽の良い種類を「嫌光性種子」があります。

ミツバやシソ、春菊は「好光性種子」で、光がない暗闇では発芽しません。その理由は、種が地中深く埋まってしまったり、他の植物がたくさん生えていて光が遮られている場所では、発芽しても育つことができず、枯れてしまうからです。

「青シソ」は、種を蒔けば土を薄く被せ、発芽するまで水を切らさないようにするのがコツ。
日本原産の「山三葉(ヤマミツバ)」。こぼれ種がすぐに発芽して、増えてしまうので、雑草として扱われています。

南瓜や西瓜などのウリ科は、「嫌光性種子」で、光があると発芽しません。その理由は、 これらの野菜の故郷は砂漠地帯など乾燥地であることが多く、光のあたる地表に近いところで発芽してしまうと、乾燥地では水分が足りなくて干からびてしまうと種がインプットしているからです。

むしろ、暗闇で水分が豊富な土中で発芽して、種に蓄えられている栄養で地表まで茎を伸ばし、根を深く伸ばして水分を得やすくするためと考えられています。なので、これらの種は、栄養を蓄えるために大きくなったと考えられています。

好光性と嫌光性の種
好光性種子:レタス、牛蒡、春菊、人参、ミツバ、シソ、キャベツ等
嫌光性種子:大根、葱、玉葱、ニラ、茄子、トマト、唐辛子、胡瓜等

早生会津南瓜の種。

種の保存方法

種は、乾燥状態のときは活動を停止(休眠)しているので、一般の野菜の種は、乾燥状態で密閉して、低温で保存しておくと発芽力を保存することができます。自家採種した種や余った種を保存したい時は、天日干しなどで十分に乾燥させた後、ビンや缶などに入れて密閉し、冷暗所で保管します。ただし、種にはそれぞれ寿命があるので、採取や保管した年月日を記入しておくと便利です。

交換会でいただいた種。誰がいつ採取したか記載されています。

種の作り方

例えば、果物にバナナやミカン、ブドウの品種には種なしが一般的です。これらは、人間が植物ホルモンなどを使って種が出来ないようにしていることが理由です。特にバナナは、突然変異で種ができなくなった野生の花を株分けして増やしたもの。種なしバナナの歴史は古く、紀元前からあったとされ、人類は栽培と選抜を繰り返し、食べやすいように品種改良を繰り返してきました。

原種に近い種ありのバナナ。
写真流用:https://sixpenceee.com/image/176388567023

では、どうやって種は作られるのか。

まず、植物の中には花を咲かせる「被子植物」と、イチョウやマツなどの「裸子植物」があります。どちらの植物にも発達すると種になる「胚珠(はいじゅ)」があります。

被子植物は下記の図のように子房内にあり、裸子植物では胚珠が裸出します。マツ、スギ、ヒノキ、ソテツ、イチョウなどが裸子植物で、それ以外の殆どが被子植物です。

一般的な被子植物の果実がどのように成長し、種が出来るかをご説明します。

柱頭に花粉がつくことを「受粉」といいます。受粉すると、花粉から「花粉管」という細い管が雌しべの方へ伸びて、雌しべの根元「子房(しぼう)」に辿りつきます。子房は「花托(かたく)」によって支えられています。この子房や花托が大きくなることで果実へと成長していく仕組みになっています。

花粉管が子房の中の胚珠に届くと、花粉管の中で「花粉核」から分裂してできた2つの精核のうち、1つは卵細胞の核と合体して「受精」します。被子植物では「卵細胞と精核」「中心核と精核」という2つの合体が起こるので「重複受精」と呼ばれています。重複受精のうちどちらかが失敗してしまうと、種はできません。

種が成熟していくと、子房や花托などが種を包み込むように成長して果実として育っていきます。

南瓜の雌しべにある子房。
南瓜の果実へ成長します。
胡瓜の雌しべにある子房。
胡瓜の果実へ成長します。
胡瓜は熟すと黄色くなり、種ができます。

受精した卵細胞は、細胞分裂を繰り返して「胚」となり、受精した中心核も、細胞分裂を繰り返して「胚」の成長を支える「胚乳(はいにゅう)=養分」になります。これらが一つのカプセルのようにまとめられたものが、いわゆる「種」です。胚乳がある種子を「有胚乳種子」、胚乳がない種子を「無胚乳種子」といいます。

有胚乳種子にはイネ、トマト、トウモロコシなど。無胚乳種子は大豆、胡瓜、南瓜など。

種を作るために植物はなぜこんなに面倒なことをするのか。それは花粉(精核)と、子房の卵細胞がそれぞれ別々に持っている遺伝子の情報を組み合わせることで、多様性のある遺伝子をもった子孫をいく通りも生み出すことができるからです。

次回は、その遺伝子の仕組みについてご紹介します。
こちらのリンクからご覧いただけます。

参考文献
『たねのふしぎ』書店
『今さら聞けない タネと品種の話 きほんのき』農文協
『スイカのタネはなぜ散らばっているのか』稲垣栄洋

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